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「………安部。………江藤。………川島。………斎藤」
柔らかくて澄んだ、耳に心地よい声。
「……椎名」
「はい」
「……辰見、……槌田、…」
わたしは机に頬杖をついたまま、教壇の上で淡々と出席を取る春山先生を見つめていた。
相変わらず、見惚れるほどのきれいな顔。今日も細身のスーツがよく似合う。
そして相変わらず、クールすぎるほど、クール。
出席を取っているのだから当たり前だけど…毎朝、こちらを見ずにわたしの名を呼ぶ先生を、とても遠い存在に感じる。
-―せっかく同じ教室で過ごしてるのに……。
先生が、どんどん遠のいて行く気がする。
2年の終わりに、「春から春山先生が初めて担任を受け持つらしい」という噂を聞いた。
居ても立ってもいられなくなったわたしが向かった先は――近所の神社。
今考えると、この上なく地味な行動だったけれど…人は本当に願いを叶えたい時、最終的には神にすがる生き物なのだろう。
――先生が、私のクラスの担任になってくれますように。
おこづかいをお賽銭につぎ込み、わたしは春休み中、ほとんど毎日参拝した。
そして…。
近所の無名な神様は、あっさりその願いを聞き届けてくれた。
3年生になり、春山先生が出席簿を持って教室に入って来た時は、喜びのあまり卒倒しそうになった。
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