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わたしはトコトコと机の反対側に回り、先生の隣の席に腰を下ろした。
「大丈夫?…顔、…赤いよ。」
先生は頬杖をついて、わたしの顔をじっと見下ろしている。
「だいじょうぶ、です…」
わたしは投稿用紙の山を手に取った。
集中できるはずもなく、ただ文章を目で追うふりをしていると、先生の手がこちらに伸びて来るのが分かった。
つい身を縮めると、指先が私の髪をすくい取る。
「髪、伸びたね。…校則違反だよ」
「…すみません…」
わたしは思わず、投稿用紙をきゅっと握りしめた。
「…今週、切りに行ってきます」
「切っちゃうの」
「…え…」
「…結んだら?長いほうが、可愛いよ」
…あ…。
私は手にした用紙で顔を隠した。
久しぶりに、言ってくれた。可愛い、って…。
「顔、見せて」
…無理…。泣きそう。
用紙を引き下ろされ、きれいな指がわたしの顎をそっと引き上げる。
先生は、長いまつ毛の向こう側から、深いコハク色の瞳でわたしを見つめていた。
「なんで、来なかったの」
「……」
先生の声は、泣きたくなるほど優しかった。
自分が駄々をこねたことが改めて恥ずかしくなり、頬が熱を帯びる。
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