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「…ごめんなさい…」
わたしは心から言った。
「もう、こんなこと、しない。ごめんなさい…」
「…分かってれば、よし」
先生はニッと笑って、わたしの頬を手の甲で撫でた。
「先生…」
「ん?」
「あの…」
…お願いしてみようかな。…キスしてほしいって…。
今なら、思い切って言えるような気がする。
「先生、わたし……」
先生の手に自分の手を重ね、唇をせがもうとした時だった。
コンコン、と、弾むようなノックの音。
「どうぞ」
先生の手が離れて行くのと同時に、ドアが開いた。
顔を向け、わたしは声を上げそうになった。
立っていたのは、…2年の女子。
――あの子だ。
中庭で、春山先生に小さな紙袋を渡していた、栗色の髪の――。
「すみません。ここに万年筆、落ちてませんでしたか」
彼女は高い声でそう言って、辺りを見回す仕草をした。
美しい長い髪が、さらりと肩から滑り落ちる。
「落ちてたよ。はい、これ」
春山先生が、手元から紺色の万年筆を取り出した。
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