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「あ、うん…。一度だけ」
「ふーん。そうなんですか」
「……」
…なんだろう、このやけに余裕な表情…。
「え、…何回?」
「はい?」
「…月子ちゃんは、先生の車、何回乗ったの?」
「…えっと…」
月子ちゃんは暫く上を見て考えていたが、
「忘れちゃいました。いちいち数えてませんから」
「…そっ。そうだよね、はは」
わたしは笑いながら視線を外した。
…ショックだった。
春山先生が、他の女生徒を車に乗せるなんて…。
二人で展望台に行った、あの大切な夜のことを思い出すと、何とも言えない感情が込み上げ、目の奥が熱くなる。
わたしだけじゃ、なかった。
先生の助手席に乗ったのは、わたしだけじゃ…。
「あの、ごめん、月子ちゃん。」
わたしは腕時計に目を落として見せてから、必死で笑顔を浮かべた。
「ちょっと用事思い出したから、やっぱり先に帰るね」
「…そうですか」
月子ちゃんはくす、と笑って、
「さようなら。…お気をつけて」
と首を傾げるようにお辞儀をした。
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