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 駅に向かって早足で歩きながら、わたしは零れた涙を拭った。  …また、やっちゃった…。  月子ちゃんの前で泣きたくなかったから、慌てて帰って来た、というのもあるけれど、…同時にわたしは、こうやって春山先生の気を引こうとしている。  更科くんに言われた通り…わたしは駄々をこねて先生にかまってもらいたいだけの、子供なのかもしれない。  こんなことばかりしていたら、…本当に先生に呆れられてしまう。 『哲哉くんの車、乗った事あるんですか』  …あんな一言でこんなに揺れてしまうのは、…自信がないからだ。   今までずっと、気付かないふりをして、気にしないようにしていたけれど、…。  先生は一度もわたしに、好きだと言ってくれた事がない。 『卒業式の夜、…予定、空けとけよ』  わたしには、あの言葉だけが全て。  考えないようにして、目を背けてきたけれど、…実はわたしは先生から、確かなものなんて何一つ、貰っていない。  …どうしよう…。  わたしが繋がっていると思いこんでいた想いの糸が、辿ってみたらぷっつりと切れてしまっていたら。  …先生…。  あの言葉を信じていればいいんだよね。  先生のこと、好きでいていいんだよね…。  涙で前が見えなくなって、わたしは慌てて立ち止まり、両手で目を擦った。  …先生…。  だったらどうして、…キスしてくれないの?  どうして…。  わたしのこと、…どうして、しっかり掴まえていてくれないの?
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