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……やば……。
太陽を遮っている”何か”の方に、恐る恐る顔を向ける。
「なにしてんの」
逆光で表情は見えなかったが、聞き慣れた声と、細身で背の高いシルエットは春山先生のものに違いなかった。
「えっと」
わたしは引きつりつつも笑顔をつくった。
「かくれんぼ、です」
「……そ」
ふい、と先生の姿が消える。
――覗き見してたの、ばれた……。
わたしはおでこを壁にくっつけ、はあ、とため息をついた。
しかも、こんなとこにハマってる姿まで見られて……カッコ悪。
自己嫌悪のあまり、そのままおでこをうりうりと擦りつけていると、もう一度、フッと陽が遮られた。
「なにやってんの。行くよ、椎名」
ぶっきらぼうだけど、とても優しい声。
わたしは、もう一度先生の方に顔を向けた。
太陽を背にしたその表情は、やはり窺えない。
「…引っかかって、出られないんです」
「しょうがないな。…ほら」
先生のきれいな手がこちらに差し出される。
ゆっくりと手を伸ばすと、二人の手が重なる。
引こうとする力に抗って、わたしはぎゅっと先生の手を握りしめた。
……先生……。
わたし、――先生の気持ちが、見えないよ。
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