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「更科くんは、人を本気で好きになった事が無いんでしょう。 だから、そんな風に分析して、知ったかぶってるんじゃないの」 「じゃあ」  いつの間にか、更科くんがテーブルに沿って廻り込み、わたしの目の前に立っていた。  ぐっと顔を寄せ、きれいな顔で微笑む。 「萌は、本気で人を好きになったことがあるの?」 「…あるよ」 「それって、春山のこと言ってんの?」 「……」  わたしが黙ってじっと見返していると、更科くんの目に哀れむような表情が浮かんだ。 「…笑える。…何にも知らないのに、よく本気だなんて言えるね」  さらに顔が近付く。 「学校での春山しか見た事がないくせに。…それが萌にとっては精一杯の『本気』なの? そういうのって、『恋に恋してる』っていうんじゃない?」  言い返す言葉を探そうとした瞬間、それを遮るように喉元が熱くなった。  …図星だった。  わたしは、学校以外での春山先生の事をなにも、知らない。 「加賀月子は、よーく知ってるみたいだけどね。春山の家族の事とか、春山の好きな喫茶店に一緒に行った時の事とか、自慢げに話してたよ。 二人の方が、よっぽど関係が深いように、俺には見えるけどね」 「……」  わたしは、手に持った用紙を握りしめた。  …絶対に、泣かない。…こんな子の前で、泣いたりなんか…。  そう思えば思うほど、意志とは別物のように涙が込み上げて来る。
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