1048人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「ねえ、萌」
ひんやりと冷たい手が、わたしの頬に触れた。
「俺と、付き合わない?……あんな奴もうやめちゃって、俺と――」
「好きだもん…」
瞬きをした瞬間、溜まっていた涙が両目からぽと、ぽと、と落ちる。
「わたし、…本当に、春山先生のこと、…好きだもん…」
「…かわいそ、萌」
細い指が、わたしの涙をすくい取る。
「そんな風に、自分に言い聞かせることしか出来ないなんて…」
「……。…好きだもん…」
わたしは、…先生のことを何も知らない。
だとしたら、この気持ちは何なんだろう。
苦しくて、愛おしくて…抱きしめられたいと願う、この気持ちは…。
一度零れた涙は止まらなくなり、次から次へと浮かび上がっては落ちて行く。
更科くんの手が、わたしの頭の後ろに添えられ、ゆっくりと顔が近付いた。
「泣き顔、すげえ可愛い。…もっと、泣かせたい…」
身体を引く間もなく、更科くんの唇がわたしの頬に触れた。
涙を舌先でぺロり、と舐めてから、わたしの顔を覗きこむ。
「俺、絶対にあんたのこと、手に入れるから」
その時突然、ガチャ、と扉が開いた。
最初のコメントを投稿しよう!