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「…大丈夫ですか」
目の前にピンク色の小花模様のハンカチが差し出される。
顔を上げると、加賀月子が微笑んでいた。
「…大丈夫。…ハンカチ、持ってるから」
わたしがポケットからハンカチを取り出すと、彼女はそれを引っ込めた。
「お前、何言ったんだよ、椎名に!」
田辺くんはまだ怒っている。
「…泣かせるような事、言ってませんよ。…好きだ、って言って、キスしただけです」
一瞬の静寂。
慌てて打ち消そうと顔を上げると、月子ちゃんの表情が目に入り、わたしは思わず言葉を呑み込んだ。
「…どうしたの、月子ちゃん…」
彼女は一点を見つめ、顔を強張らせて真っ青になっている。その視線を追い、わたしは自分の手元に目を落とした。
投稿用紙の束の一番上に、太いマジックで殴り書きされた文字。
『放火魔は、学校を去れ。』
「…なに、これ…」
見上げると、その場にいた全員の視線が、この文字に釘づけになっていた。
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