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我が校の放送部は、3年生の引退時期が遅めで、11月の文化祭を終えてからと決まっている。
文化祭での放送を最後に、私も田辺くんも部を去る事になるのだ。
残り2カ月。
春山先生と、この放送部室で過ごせるのも、あとわずか。
考えるとどこまでも落ち込んでしまうため、私は普段、出来るだけ引退の事は考えないようにしていた。
それでも、…3年の夏が終わり、秋がやって来て、そろそろ冬に差しかかるこの時期。
『引退」だけでなく『受験』の二文字も現実味を帯び、私の頼りない両肩にずしりと重くのしかかっていた。
「引き継ぎ、とか聞くと、なんか寂しいよなあ。いよいよ引退が近いって感じでさあ」
田辺くんは、いつものようにポッキーを食べながら雑誌をめくり始めた。
「…水曜の恋パラは、たぶんミツルに引き継ぎだろうな」
そう言って、値踏みするような目で更科くんを見上げる。
「果たしてお前に務まんのかー?俺の後釜が」
更科ミツルは、2年になってから編入してきて、ついこの前、この放送部に入部したばかりの新入りだった。
まだ籍を置いてから3カ月ほどしか経っていないにもかかわらず、いわゆる『憎まれ弟キャラ』のおかげで、すっかり部に溶け込んでいる。
柔らかなパーマのかかった茶色い髪と、大きな栗色の目が印象的な美少年で、本当かどうかは分からないけれど、転校してきてすぐにファンクラブまで結成されたという噂も聞いた。
でも…。
わたしは美しい横顔をちらりと盗み見た。
実際話してみると、この子はかなりのクセモノだ。
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