第1話

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   隣りの市にある例の遊園地に、俺も数回足を運んだ事があったが、このニュースも普段のそれと同じように他人事として耳をすり抜けていった。  全く近頃はおかしな事件が増えた。  それにしても慣れというのは恐ろしいものだ。俺は今や、この異常こそが正常なのだという顔をした暮らしの中を彷徨っている。それなのに何一つ感情が生まれない。  親が子供を殺しました、ふうん。中学生が自殺しました、へえ。犯人は警察官でした、ほお。とまあこんな感じだ。  誰に取っても正義そのものだったはずの警察は近頃、まるで自分達も人間だということを露骨にアピールするかのように悪行に手を染める。  いつからか歯車は、ずれはじめた。  正義だと信じたものが悪だったり、悪が正義を装ったりするせいで、何が正しくて何が間違っているのか俺はさっぱり分からなくなってしまった。大げさかもしれないが、近頃は自分が生きているのか死んでいるのかすら分からない。  だって誰が証明出来る。誰が目に映るものは全て真実だなんて言える。死ぬために生きるようなこの暮らしの中で、僕は自由ですと胸を張って言えるか。  馬鹿な、言えるもんか。  平等社会。笑わせるな、そんな偉そうな口を叩くのはいつも支配者をきどり法律を作る奴らなのさ。そして奴らは高い地位でぬくぬくと綺麗事を並べ続けるために、甘い汁を吸い続けるために嘘を吐き続ける。  俺はそれを批判出来るほど立派じゃないし、全てを否定するわけじゃないがそんな奴らが平等などと口にすること、それが気に食わないだけだ。  世間知らずの青二才。否定はしないさ、まだ酒も飲めないガキだからな。  全く、誰にこんな馬鹿げた話をしているのだろう。笑い話の種にもなりゃしないよ。  窓の外では橙色の空が少しずつ闇に染められていく。夏も終わり、徐々に夜が早くなってきている。  空の色の移りを窓越しに見ながら俺はいつかの朝を思い出していたーー。    
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