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その日は珍しく早くに目覚め、昇って間もない透けた檸檬色の朝日に照らされた空を眺めた。
違和感があった。おかしい、俺にとっては確かに昔この色は自由の色、始まりの色だった。そう感じられていた。
ところがどうだ、目に映る昔と同じはずの色は自由や始まりどころか束縛や、昨日までの疲れの繰り返しを思い出させ、さらにはこれからのそれを予感させるだけだった。
あの日の言いようもない虚しさが、これ以上空を見ていたら今度は俺をはみ出し部屋中に広がって、絨毯なんかに染み込む気がした。
俺はコンビニにでも行こうと、逃げるように自室の二階から軋む階段を駆け下りた。玄関で靴紐を結んでいると台所から聞き慣れた、癪に障るほどの高い声が聞こえた。
「ゆうちゃん、どっかいくの」
「ちょっとコンビニ行ってくる」
「もうじき夕飯出来るわよ」
「暑いからアイス買ってくる」
一々応えるのが億劫で仕方がない。時間の無駄遣いをしたくない。
「そう。丁度いいわ、今夜お刺身なんだけどお醤油が足りないかもしれないの。買ってきてよ」
それに応えず外へ出た。全く。こういうやり取り一つにも時を無駄にしていると痛感してしまうこの頃。
それにしても九月も半ばだというのにこの暑さはどうだ。夏が去ったとは思えない。夏と変わったといえば蝉の鳴き声くらいだ。月並みのミンミンからカナカナだのツクツクボウシだのに変わった、それだけ。ああ、喧しい。
俺は家から五百メートルと離れていないコンビニまで自転車を走らせるのに蝉の鳴き声のせいか、十回は舌打ちをした。
コンビニのすぐ傍にある公園では、まだ子供達が遊んでいた。
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