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第二章
不意に男子トイレから水の流れる音が聞こえ、直後にくすんだ青いキャップと、それと同じ色の作業服のようなものを着た五十歳ぐらいの小柄な男がハンカチ片手に出てきた。
ペガサスの横に立った男はその伸びるに伸びた雑草のような無精髭や、肉がそぎおちた頬なんかをとってみても、横の美しいペガサスとはあまりに不釣り合いすぎた。痩せ過ぎて、男の眼は異様なほど大きく見えた。
「副島、こいつは私の声が聞こえる」
ペガサスの声がまた体内に響いた。
「おお、そうですか」
彼はほんの少しこちらに歩み寄ってきた。
「はじめまして、副島と申します。そんな固くならんで下さい。そうですか、あなたも彼の声が聞こえるのですね」
彼が右手を差し伸べて来た。
「……はあ」
自分の手を彼の手に触れようとさせながら、返事とは呼べそうもない間の抜けた音のようなものが口から漏れた。
「副島、私はこいつにも手伝ってもらいたいと考えている」
また体内で声が響いた。副島さんに話しているのに俺にも聞こえることがなんだか可笑しかった。
「副島、これまでの経緯を説明してくれ、そして共に来ることを頼んでくれ。人間のお前の方が、こいつも落ち着いて聞けるだろう」
「あのお名前は?」
「相田です」
さっきよりは幾分、落ち着いた気持ちで答えることが出来た。
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