第二章

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「相田君、驚いたでしょう。そりゃそうですよね。公園にペガサスがいるんですからなあ……誰だって驚きますよね。  ……さてと、では順を追って説明させてください。  まずこのペガサスはですな、今朝までメリーゴーランドの遊具だったんです。しかし彼は自分に付いている翼を羽ばたかせることも出来ず、柱に繋げられ回され続けることが嫌だった。これが自分の生まれた理由ならば何のための翼なんだ。ってわけです。  彼は自由になりたかった。幸いにも彼の自由への願望は叶わぬ夢ではなかった。彼は自分がただの像から、まあ言い方はどうかと思いますが動物へと変わる術を知っていた。それは彼によると、自分と話せる人間が背中に乗ること、とまあファンタジーや漫画なんかにありがちな条件なんですが、って相田君? どうかしました?」  一瞬にして鳥肌がたった。副島さんの、さっきの失言と取れなくもない発言にペガサスの、ギリシャ彫刻なんかに見られるような空洞の目が睨むように細くなったのは気のせいだろうか?  『大丈夫大丈夫、気のせいさ! ははっ』 「大丈夫ですか? ええっとどこまで話したかな……ああそうだ、そのありがちな条件で彼は動物へと変われるんですが、残念ながら話せる人間はほとんどいないらしいです。  というのも話せる条件、これもまた条件ですが自分と同じ気持ちを持った人間だけというんです。言い忘れてましたが、彼は人間を見ただけで自分と話せるか判断出来るらしいです。自由を求めているもの、今の暮らしに満足していない者がまさに彼と話せる人間に当てはまるといったところなんですが、一見ごまんといそうなものでしょう。  ところがそうじゃないみたいですね。自分は自由じゃないと信じている人も、心の何処かでは自由に浸りきっている自分を見つけている人がほとんどで、今の暮らしに不満を感じている人もほとんどが一時的に感傷的になるだけのことで、美味しいものを食べたり綺麗なものを見たらすぐに不満なんて解消されてしまう人ばかりらしいです。  ましてや、そんな事を考えている人達が、楽しむために存在する遊園地にわざわざ来ると思いますか。まあ来ませんよね。私に言わせりゃ遊園地は、心や暮らしにゆとりのある人の溜まり場ですよ」  うーん、なかなか面白いことを言う人だ。道理で俺は楽しむための物ですら素直に楽しめないわけだ。
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