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「若い人?」
「ううん。若くはない。50代か60代。昔はこのへんがどうだったとか、古くからあるのはどの家だとか、そんな話をしてたんだけど‥‥」
「それで?」
「急に『喪苦楽階段』って言葉が聞こえてきて‥‥。『喪苦楽階段をくだると、思ってることは、なんもかんも、みんな忘れちまうんだよなぁ…』って」
「へぇ‥それで?」
「それだけ。東京にも喪苦楽階段があるんだなぁ……って思って。優太くん、知らない?」
「知らない。聞いたこともないな。そもそも“モグラ”って、動物のモグラのこと?」
「う~ん…どうだろ」
「どんな字を書くの?」
「ウシナ(喪)うに、クル(苦)しいと、ラク(楽)で喪苦楽。この辺のどこかにあるのよ。昔、山だったみたいだから、階段や坂道も多いし‥‥」
「長崎にもあったの?」
佑奈は長崎の生まれだと言っていた。
「お婆ちゃんがよく『喪苦楽階段』のお話しを話してくれたから……。ほら、長崎って坂が多いじゃない?それに比例して階段も多いのよ。だから私、家の近所にあった階段を勝手に“喪苦楽階段”ってことにして、忘れたいことがある時はそこをくだったのよ」
「へぇ」
「お婆ちゃんは福岡の人だから、もともとはあっちのほうの話かもしれない」
「福岡かぁ。俺の母方も福岡だよ。わりと良い所だよね」
「行ったことあるの?」
「小さいときに法事なんかでね。結構にぎやかだし、ご飯も美味しかった」
「良い思い出ね」
「まぁね」
「ねぇ‥‥」
「ん?」
「どれが喪苦楽階段なのか調べてくれない?」
「えっ…?‥‥うん」
優太は戸惑いながら頷いた。
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