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久しぶりに顔を見て、
「元気そうですね」
と優太が言うと、
「元気なことあるもんか。今年いっぱい持つかなぁ。お迎えももうすぐだろ」
と、下唇を突き出した。
「シゲじいさん『喪苦楽階段』ってどこだかわかりますか?青山とか代官山のあたりだと思うんですけど…」
「喪苦楽階段?知らんなぁ……よしっ王手!」
「いやぁー!ちょっと待ってくれよシゲさん!」
と、焦りながらシゲじいさんの相手をしているのは、同じ通りにある文房具屋の店主の内山さんである。
将棋板を見ると、シゲじいさんが優勢なのは一目瞭然であった。
「内山さんは知らないですかね?喪苦楽階段」
「喪苦楽階段?う~ん‥‥聞いたこともあるような気がするんだが……。すまねぇ優ちゃん、今それどころじゃねぇや」
「なんか思い出したら教えてください」
「おう!またな」
他にも1人、2人、この辺りに長く住んでいる人たちに当たってみだが、喪苦楽階段を知っている者は誰もいなかった。
まさか、皆忘れてしまったのではあるまいか……。
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