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「いつまでも一緒だよ」
写真の中の楽しげな二人。その下に丸い文字で書かれた言葉。
また、この夢だ。
鈴村陽菜は、うんざりとしながら天を仰いだ。
毎回のように繰り返す代わり映えしない夢。
机の上に置かれたフォトフレーム。名も知らない少年とその横で笑う自分によく似た少女。
あるいはそれは自分なのかも知れない。
しかし、そんな記憶の曖昧さなど、今の陽菜にはどうでもいいことだった。
やるべきことは他にある。
陽菜は小さく息を吐くと、腰に佩いた刀を抜き放った。
剛性、粘性ともにチタンを凌ぐルナリウムと名付けられた特殊な合金を鍛造して研かれた日本刀「夜烏丸」。
その斬れ味は、鋼鉄すら紙の如し。しかも、この夜烏丸には古来の日本刀には無い科学技術が融合されている。
陽菜にとって、パートナーと呼べるのは写真の中で笑っている少年ではない。すべてを斬り裂くこの刃だ。
判っている。この後、私は部屋を出る。古い朽ちかけた廃墟の廊下、澱んだ暗闇の向こうを見れば、そこに戦うべき相手がいる。
翔ぶように廊下を駆け抜け、一気に間合いを詰める。
斬り裂く。
一切の反撃は許さない。
斬り裂く。
斬り裂く。
斬り裂く。
夢はここで覚める。
これもいつも通り。
悪夢から目覚めると、そこは兵舎の一室。悪夢から目覚めてもまた悪夢の世界。現実も夢もたいして変わらない。
陽菜は着ていた服を脱ぎ捨てて部屋に据付けのシャワールームへ向かう。
温度設定は五十度。かなり高温の熱湯を頭から浴びる。
十九歳の若々しい肌が湯気のたつ熱湯を弾き返しながら、ほんのりと紅潮していく。
医者がみれば止めさせたくなるような乱暴さだが、これも陽菜の日課だった。
朝起きてすぐに熱湯を浴びる。全身の細胞という細胞が一気に覚醒する。
ところで、この佐世保中央基地の兵舎において、シャワールーム付きの個室は破格の待遇だが、これは特殊部隊ムラクモでも陽菜ただ一人に与えられた特権だ。
陽菜以外にも女性はいるが、彼女たちは四人相部屋で寝食を共にしている。
陽菜はムラクモ内でも特殊な存在だった。
確かに陽菜の強さは精鋭揃いのムラクモでも一人突出していたが、僅か十九歳の少女が部隊長となり、こうした特別待遇を受けているのは他にも理由があった。
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