707人が本棚に入れています
本棚に追加
「ね、先生…。わたし、誰にも言わないから…」
「椎名」
先生が、優しいけれどはっきりとした声で遮った。
「やっぱりお前…何か言われたんだろ。ミツルに」
「……」
「何を言われたの?…言ってごらん」
先生は、いつもこうしてわたしの心を簡単に見破ってしまう。
確かに、――わたしがこんなに不安になって、自分の気持ちにさえ自信が持てなくなっているのは、あの時の、更科くんの言葉のせいだ。
本当の事を残酷に突きつけられたから、わたしは…こんなにも焦って、自分を見失いかけている。
先生はそんなわたしの、自分でも理解できていなかった心の動揺を見抜いて、先回りして、…ちゃんと考えてから適切な言葉をくれる。
先生は、大人で…。
そして、先生が大人過ぎるから、私は余計に不安になる。
わたしは身体を起こし、黙って先生の足の上に跨った。
向かい合って膝の上に座る。
「ね、して……先生。わたし、先生になら何されても…いいよ」
引き込まれそうな、先生の深い瞳をじっと見つめていると、先生の両手が背中に伸びた。
わたしの身体を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。
先生の首元にわたしの頬が当たり、柔らかな体温が伝わってくる。
あったかい、先生の匂い…。
最初のコメントを投稿しよう!