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「ね、先生…。わたし、誰にも言わないから…」 「椎名」  先生が、優しいけれどはっきりとした声で遮った。 「やっぱりお前…何か言われたんだろ。ミツルに」 「……」 「何を言われたの?…言ってごらん」  先生は、いつもこうしてわたしの心を簡単に見破ってしまう。  確かに、――わたしがこんなに不安になって、自分の気持ちにさえ自信が持てなくなっているのは、あの時の、更科くんの言葉のせいだ。  本当の事を残酷に突きつけられたから、わたしは…こんなにも焦って、自分を見失いかけている。  先生はそんなわたしの、自分でも理解できていなかった心の動揺を見抜いて、先回りして、…ちゃんと考えてから適切な言葉をくれる。  先生は、大人で…。  そして、先生が大人過ぎるから、私は余計に不安になる。  わたしは身体を起こし、黙って先生の足の上に跨った。  向かい合って膝の上に座る。 「ね、して……先生。わたし、先生になら何されても…いいよ」  引き込まれそうな、先生の深い瞳をじっと見つめていると、先生の両手が背中に伸びた。  わたしの身体を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。  先生の首元にわたしの頬が当たり、柔らかな体温が伝わってくる。  あったかい、先生の匂い…。
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