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「…椎名」
「……」
「…ほんとは、何が、ほしい?」
「……」
先生の首筋に顔を埋めたまま、わたしは黙っていた。
「椎名がほしいのは、…本当は、身体の繋がりなんかじゃないだろ」
優しい声が、耳と、そして重なり合った胸に響いて、聞こえてくる。
「…どうしたら、そんな哀しそうな顔、しなくて済む?」
先生の手が、私の背中を撫でる。
優しい手。
やっぱりわたしは…このひとが好きだ、と思った。
更科くんに何を言われようと、加賀月子がどれだけ春山先生と深く関わっていようと、…この気持ちだけは、変わらない。
先生の胸にうっとりと身を任せながら、わたしは小さな声で言った。
「…先生が、携帯の番号教えてくれたら…」
一瞬間があって、先生が吹き出した。
わたしを抱きしめたまま、肩を揺らして笑っている。
「ちょっと、先生…」
「…わ、…悪い…。…ちょっと、待って…」
笑いが治まらず、先生はそのまま、くっくっくっと笑い続けた。
身体を離し、すっかり膨れたわたしの顔を見ると、先生は笑いすぎで目に溜まった涙を拭った。
「はあ、…久々だよ、こんなに笑ったの」
「わたし、おもしろいこと言ってないもん」
口を尖らせて言うと、先生はわたしの前髪を撫でた。
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