707人が本棚に入れています
本棚に追加
「わかってるよ。…悪かった。…お前があんまり可愛いこと言うからさ。…ほら、携帯出してみ」
先生がスーツの内ポケットに手を入れたので、わたしも急いで脇に置いたバッグから携帯を取り出した。
赤外線通信をしながら、先生の表情を盗み見る。
大笑いした後だからか、携帯の淡い光が照らす先生の顔は、少し幼く見えた。
「これで、落ち着いた?」
携帯を閉じ、ニッと笑う先生に、わたしも頬を緩ませる。
「はい…」
先生はわたしの頬を撫でて、
「…まさか、こんな簡単なことで元気になって貰えるとは思わなかったよ。…もっとすごいこと、要求されるかと思った」
「え、…どんなことですか」
「教えたらお前、ホントに要求するだろ。絶対、教えない」
「……」
「そうそう。…携帯の登録の名前、変えといて。…誰に見られるか、分かんないから」
「はい、わかりました」
「…ん」
先生はもう一度、わたしの頭を撫でてくれた。
その時、廊下の方から、複数の足音が近づいて来るのが聞こえた。
「萌ーっ!」
「椎名―っ!」
彩加とヒロシだ。
「いないね、…ほんと、どこ行ったんだろ。先生までいなくなっちゃうなんてさ」
トモコもいる。
わたしは息を殺し、身を縮めた。
最初のコメントを投稿しよう!