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「わかってるよ。…悪かった。…お前があんまり可愛いこと言うからさ。…ほら、携帯出してみ」  先生がスーツの内ポケットに手を入れたので、わたしも急いで脇に置いたバッグから携帯を取り出した。  赤外線通信をしながら、先生の表情を盗み見る。  大笑いした後だからか、携帯の淡い光が照らす先生の顔は、少し幼く見えた。 「これで、落ち着いた?」  携帯を閉じ、ニッと笑う先生に、わたしも頬を緩ませる。 「はい…」  先生はわたしの頬を撫でて、 「…まさか、こんな簡単なことで元気になって貰えるとは思わなかったよ。…もっとすごいこと、要求されるかと思った」 「え、…どんなことですか」 「教えたらお前、ホントに要求するだろ。絶対、教えない」 「……」 「そうそう。…携帯の登録の名前、変えといて。…誰に見られるか、分かんないから」 「はい、わかりました」 「…ん」  先生はもう一度、わたしの頭を撫でてくれた。  その時、廊下の方から、複数の足音が近づいて来るのが聞こえた。 「萌ーっ!」 「椎名―っ!」  彩加とヒロシだ。 「いないね、…ほんと、どこ行ったんだろ。先生までいなくなっちゃうなんてさ」  トモコもいる。  わたしは息を殺し、身を縮めた。
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