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「お待たせ!」
カメラを担いだヒロシくんが軽い足取りでトイレから出て来た。
「次は、音楽室だな。深夜にバッハの胸像が校内を徘徊する、ていう、あれ。撮りに行こう」
「うへ、なんかインチキくさ」
「文句言うなよなぁ、奈良崎」
「へいへい」
彩加は、歩き出しながらひょいっとわたしの手を取った。
…あれ。
わたしは思わず彩加の顔を見た。
…彩加…本当は、怖いんだ
わたしは、微かに震える彩加の手を、しっかりと握り返した。
「奈良崎さ、暗闇で一人になると、パニック起こすんだよ。」
昨日の帰り道、田辺くんは自転車を押しながらそう言った。
初耳だったので、わたしは少し驚いた。
「パニックって…」
「昔、お化け屋敷で迷子になったことがあるらしくてさ。冗談抜きで、ヤバい状態になっちゃうんだよ」
「そうだったんだ。…知らなかった」
「あいつの事だから、平気なふりして無理して頑張っちゃうと思うからさ。
一人にならないように、見ててやってくれる?トモコにも頼んではあるんだけどさ」
クラスの違う田辺くんは、自分がついていてあげられない事が歯痒いようだった。
本当にうらやましい…。
隣を歩く彩加の横顔を、わたしは羨望の眼差しで見つめた。
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