無名の英雄

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ここはテラスティア大陸の最北に位置する国、フェンディル王国。今日も皆平和に暮らしている。 商店街は相変わらず繁盛している。中には店の人と世話話をしたりしている人もいる。 そんな中、一人の青年がある屋店の前で止まる。 「へいらっしゃい! 何をお求めだい?」 「白身魚と塩や醤油が欲しいんだけど、あるかな?」 その青年におそらくその店の店主だろう男が声を掛ける。 それに対し、青年は買いたい物を店主に伝える。 「ははっ、運がいいな兄ちゃん! 今朝、新鮮な魚が来たんだ! そうだな、兄ちゃんには特別に半額で売ってやろう!」 「い、いいのかオッチャン? そしたら売上が伸びないんじゃ?」 「これくらいならそんな被害は無いし、それに兄ちゃんは『特別』だからな!」 店主は上機嫌な表情で他の魚より一回り大きい魚をドライアイスと一緒に袋に詰める。 それを見ての反応か、青年は店主に遠慮気味な声でそう言う。 だが、店主は調味料を魚を入れたのより大きい袋に入れ、更に袋に入れられた魚も入れながら笑顔で答える。 「いや、俺は大した事はしてないよ。ただ当たり前の事をしただけだよ」 「いやいや、当たり前で国を救わないからな普通は……ほい! 全部で30ガメルだ!」 「そんじゃ、これで」 それに対して青年は『特別』と言われたからなのか、少し苦笑しながらそう答える。 それを聞き、店主は前半は青年にしか聞こえないように小さな声で言い、後半はいつも通り大きな声で言う。 青年は懐を探り、30ガメルを店主の手に置く。 「おう、しっかり30ガメル受け取ったぜ! そんじゃ、また来てくれよ兄ちゃん!」 「うん、それじゃ」 店主はそう言いながら、手を振る。 青年も手を振りながら去っていく。 これは何処にでもある日常風景だ。 だが、この青年がこの国を救った英雄とは、店主以外知る由もなかった。
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