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部室のドアをノックすると、中からガタガタ、という音がした。
…何だろう…。
一瞬の間の後、「はい」という返事。
「失礼します…」
ドアを開けると、テーブルの向こうに春山先生が座っていた。
「先生…」
ほっとして足を踏み入れると、その二つ離れた席に座る加賀月子の姿が目に入る。
…え…。
彼女は少し俯き、指先で栗色のきれいな髪を整えていた。
春山先生は、いつもと変わらない無表情で、原稿に目を落としている。
「……」
…なに、この空気…。
「おつかれさまです、萌先輩」
立ち竦むわたしに、月子ちゃんがにっこりと微笑んで見せた。
その頬は、ほんのりピンク色に染まっている。
「…おつかれ、さま…」
…なにか、おかしい。
今、…絶対二人で…何か、してた。
間違いない。
…わたしと先生が秘密を共有しているのと全く同じ空気を、この二人から感じる。
「どうかしたんですか、先輩」
挑むような目で、月子ちゃんがわたしを見上げる。
「あ、…あの…先生」
「…ん?」
先生は表情を変えずに顔を上げた。
「…小林先生が、職員室に来てほしいそうです」
「…分かった。ありがとう」
先生は立ち上がって、わたしとすれ違うように部屋から出て行った。
ドアが閉まると、部室内には気まずい空気だけが取り残された。
座ることも出来ず、月子ちゃんの顔を見つめていると、
「なんですか?」
月子ちゃんが何かを含んだ様な微笑みを浮かべ、首を傾げた。
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