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「うそ」
「ホントですよ。…半同棲、っていうのかな。…だからついでに、彼のお弁当も作ってるんです」
わたしは思わず、一歩足を踏み出した。
「そんなの、…信じない。…ぜったい、嘘…」
「あ、そうだ」
月子ちゃんはわたしの言葉をさらりとかわした。
「わたし、先輩に謝らなきゃいけない事があるんです」
両手のひらを合わせ、困ったような表情で口元に当てる。
「土曜日の夜だったかな、彼がシャワー浴びてる時に、メールが来たんです、哲哉くんの携帯に」
わたしは、はっとして月子ちゃんを見た。
「読んだら、…内容が勘違いメールみたいだったから、消しちゃったんですけど。
…もしかしたら、あれって、萌先輩だったのかなって、あとで気付いたんですよね」
美しい微笑みを浮かべながら、その目はとても冷たかった。
「萌先輩、…週末の模試、いい点数、取れるといいですね」
「……っ」
ドサ、という鈍い音がして、わたしは自分の足元を見た。
それが、自分の手から落ちた鞄の音だと気付く。
「…大丈夫ですか?」
「…先生は…」
わたしは、月子ちゃんを真っ直ぐに見返した。
「先生は、…そんな人じゃない…」
自分自身に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を発する。
「生徒と、…そんな、…半同棲なんかするような人じゃ…」
「ふふ、…子供みたい、先輩」
月子ちゃんは、哀れむような口調で言った。
「好きだったら、ずっと一緒にいたいって思うのは、当然じゃないですか。
教師だろうが生徒だろうが、お互いに好きだったら、ブレーキなんか効かないものでしょ?
会わずにガマン出来るってことは、それだけ愛情が薄いってことだと思いますけど」
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