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「先生は、違うもの。…先生は、…」
「もしかして」
月子ちゃんは、驚いたようにわたしの顔を覗き込んだ。
「…哲哉くんに抱いてもらったこと、ないの…?」
「……」
わたしが目を逸らすと、胸を突き刺すような笑い声が響いた。
「なあんだ、…安心した。
…もしかしたら、先生が余所でつまみ食いでもしてるんじゃないかって、心配だったんです」
月子ちゃんは立ち上がって、テーブルの向こう側を回り、私の傍まで歩み寄った。
「…手を出されないのは、自分が大切にされてるからだって、勘違いしてました?
…違いますよ。
哲哉くんは、萌先輩じゃなくて、私を大切にしてくれてるんです。
だって彼、…いつも、すごく優しく、私のこと抱いてくれるから」
月子ちゃんは囁くようにそう言うと、屈んでわたしの荷物を拾い上げた。
鞄のポケットに挿し込まれていたわたしの携帯を抜き出し、いきなり操作し始める。
「…なにするのっ」
慌てて手を伸ばすと、月子ちゃんはものすごい力でわたしを突き飛ばした。
勢いよくドアに叩きつけられ、腰を打って、わたしはその場にうずくまった。
ピ、ピ、ピ、とボタンを押し、パタン、と閉じると、月子ちゃんは屈んで、私の目の前に携帯を差し出した。
「はい、これ。
……迂闊ですね、登録名、変えておかないなんて。
誰かに見られたら、哲哉くんが困るっていうのに。
…私が、ちゃんとデータ消しておきましたから」
「……」
鈍い腰の痛みに顔をしかめながら手を伸ばすと、月子ちゃんは寸前で手を離し、わたしの携帯は乾いた音を立て、床に落ちた。
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