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校門を出ると、わたしは門に寄り掛かり、先生の車を待つことにした。
いつ出てくるかは分からないけれど、ここに居るのが一番確実だ。
徐々に冷えて来る身体をさすりながら、校門の中を気にしていると、突然、ポン、と肩を叩かれた。
振り向くと、目の前に立っていたのは、大きな体をした、あの白井という記者だった。
「久しぶりだね、萌ちゃん。…電話待ってたのに、連絡くれないから、がっかりしてたんだよ」
陽気に言ってからわたしの顔を見て、おや、という顔をする。
「…泣いてるの?…どうしたの。何かあった?」
「…なんでもありません」
わたしは顔を背けて、校門の中に目をやった。
しばらく間があってから、足音が遠のいて行く。
諦めてくれたことにほっとして、わたしはそのまま校門の中を見つめ続けた。
まだ10月の末だと言うのに、ぐんと気温が下がり始め、上着を着ていないわたしの体を冷やしていく。
凍えそうなほど冷たくなってきた両手を擦り合わせ、はあ、と息を吐きかけた時、目の前に缶コーヒーが差し出された。
「どうぞ」
顔を向けると、白井さんがニコニコ笑っていた。
「…いえ、結構です」
「ガードが固いなあ、萌ちゃんは。…いいよ、飲まなくても。手だけでも暖めなよ」
白井さんはわたしの手を取って、缶コーヒーを握らせた。
じんわりと指先に伝わる温もりが、心地いい。
「…ありがとうございます」
わたしが缶を両手で包むと、彼は思いのほか優しい微笑みを浮かべた。
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