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しばらくして涙が落ち着いてから、わたしは顔を上げた。
見ると、白井さんは黙って門に寄り掛かったまま、わたしが泣きやむのを待っていたようだった。
「…大丈夫?」
「…はい。…すみません、いきなり泣いたりして…」
「いや、…青春に涙は付きものだよ」
おじさんのようなセリフに、再びわたしは笑い出した。
「え?何か変なこと言った?俺」
きょとんとした白井さんの顔は無防備で、初めて会った時の危険な雰囲気が、そこには微塵もなかった。
わたしは何となく安心感を覚え、白井さんの隣に並んで、門に寄りかかった。
「毎日、ここで見張ってるんですか?」
「ん?…ああ、来られる時はね」
「…大変ですね、記者さんのお仕事って」
「いや、…まあ、好きでやってる事だから」
白井さんは照れたように言ってから、
「…可哀相だと思ったら、協力してよ」
と懇願するようにわたしを見た。
「…協力って言っても、…わたし本当に、彼女とはほとんど接点がないですから」
「小さなことでもいいんだ、何でもない事が、きっかけになったりするから」
「でも…」
「じゃあ」
白井さんは、チャンスを逃すまいとしているのか、少し興奮したように言った。
「春山っていう教師のこと、知らない?」
思いもよらないタイミングで先生の名前が出て来たので、わたしは息をのんだ。
目を見開いて固まると、白井さんはすかさず、わたしの表情をじっと観察した。
「…知ってるんだね。…彼とは、接点があるの?」
「先生は…」
声が掠れ、わたしはもう一度言いなおした。
「先生は、…わたしのクラスの担任で、…放送部の副顧問です…」
「そう」
白井さんの目が輝く。
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