プロローグ

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桜が舞う季節、新しい出会いの四月がここ、香城館高校にも訪れていた。 新しいブレザーから薬品のにおいを漂わせながら、去年入学した一年生は二年に進級し、在校生として新入生を迎える。 在校生として体育館の奥に座る川上利央(かわかみ りお)はため息をついた。 利央の前には、新一年生が整列して立っていた。そのなかに、数日前に出会った向島大都(むこうじま ひろと)がいる。 身長が高いので、たくさんの一年生男子からすぐに見つけられた。 アイツにスタメンを、トップ下を渡したくないなあ。そう思った利央は、数日前の向島との初対面のときを思い出していた。 向島と初めて出会った三月の終わり、いきなり自分のポジションを奪い取ると宣戦布告をうける。 そして、1対1をやったが、結果はほとんど利央の負けであった。ひとつしたの年齢でありながら、利央よりも反応がすばやく身体のバランス感覚も優れていた。 奪いかかる向島から、ボールを遠ざけようとするとうまく立ち回ってゆく手をふさぐ。 逆に向島から奪おうとすると、足さばきと腕をうまく活用したブロックで利央を寄せ付けなかった。 さすが、世界でサッカーをしてきただけある。思わず利央も尊敬するほどだった。 結局ほとんど、向島に報いることなく自主錬が終わってしまう。終わる頃には向島との力の差を見せつけられた利央はただ呆然としていた。
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