プロローグ

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「木戸川さん、そんなこと一言もいっていないぞ……」 向島は小さくつぶやく。名前で利央を南米の留学生と勘違いしていたのだ。 日本人なのか、でも、京際学院や東城学園との試合でみせたドリブルやトーキックからのシュートは見事だった。 南米じゃなくても、さぞ良いコーチに指導してもらったのだろう。向島は分析した。 いちおう、向島は利央に頭をさげる。 「すみません。木戸川さんが、香城館のエースだとおっしゃっていたので、名前からして日系だと勘違いしていました」 「謝らなくていいよ、よく間違われるから」 笑顔で利央は向島に言う。少しでも先輩として、広い心を持たないと。 余裕をもって寛容に接した利央。これから自分のポジションを奪いにくる相手、初戦の駆け引きは大切だ。 小学、中学と今まで自分がずっとレギュラーだった。覚悟はしていたが、ライバルがまさかU-15(15歳以下のサッカー選抜選手)日本代表とは。 全国へ行く前に、内部競争に勝たなくてはいけない。利央は強く思う。 向島に勝つためには、自分の取り柄であるドリブル精度やバランス感覚を強化しなくては……。 「利央さん。これから頑張って、一緒に行きましょう、全国」 そういって歩み寄った向島は、右手を差し出す。これからのことを思案していた利央に話しかけた。
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