25章 咆哮

3/6
776人が本棚に入れています
本棚に追加
/423ページ
細かいことは言わず、ただそれだけを強く言った木戸川の気持ちは選手に伝わった。修英の猛攻を受けて動揺が広がっていた彼らに落ち着きを取り戻す余裕を与えた。 まずは一点を返すこと。 選手全員がその意志で結束する様子を見た木戸川は、ハーフタイムが存在して良かったと思った。 「お前らは全国に通用する力があるんだ、気合入れていけ」 若井がゲキを飛ばして送り出す。背中を押された利央は腹をくくってピッチに立つ。 「まずは一点」 「絶対に勝ちにいく」 伏見を中心に円陣を組み、彼の強い言葉に返事を返して意思を統一させる。すぐに解散し、各自のポジションにつく。 前に出て点をとる。 エンドを変え心機一転の気持ちで挑む利央。後半は修英のキックオフから始まるとき、相手選手たちに目を向けた。 「やっぱ強いな……」 11番沢口をはじめ、鋭い視線でピッチに立つ彼らを目にして言葉が口をついて出る。点差をつけても一切、手を抜く気はない様子。 本当にコイツらからゴールを奪えるのか。 つい、マイナスな思考が頭をよぎったが、すぐに振り切る。 俺たちは挑戦者、失うものは何もない。むしろ、焦るのは王者を背負う修英なんだ。 ただ自分のサッカーを貫くべし。暗示のように自身に言い聞かす利央。キックオフの笛と共に芝を踏みしめ、前に進みだした。
/423ページ

最初のコメントを投稿しよう!