25章 咆哮

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触れたはずなのに。 修英の選手を追いながら利央は悔しがる。大会前のパワープレーを想定した練習ではサイドチェンジのパスワークはうまくいっていた。 だが、体調万全のときとは状況が違う。猛暑の三連戦でスタミナの限界が近づいている。 いつもなら通るパスが通らない。 得点できない焦りと疲労による感覚の鈍化から来るその現象は利央だけではなく他のメンバーにも伝染していった。 ロングパスで繋ごうとしても、トラップミスからセカンドボールをあっさり修英に狙われてピンチになる状況が増えてきた。矢田らディフェンス陣の懸命な守備でボールを奪っても前に仕掛けず、背後にまわして攻撃の流れを滞らせる動きが目立つ。 攻撃のリズムが作れず、ハイプレスに焦ってボールをロストしカウンターを食らう展開が続き、いたずらに時間を食いつぶす。 まだ一点もとれてないのに。俺たちこのまま終わるのか。 残り時間があと半分になりつつある今、考えないようにしていたことが滝のようにかく汗と共に表面化しつつあった。 「前に出せ、サイドで組み立てろ」 居ても立っても居られずに若井が檄を飛ばす。彼の傍らで木戸川は渋面のまま、試合を見ている。 「みんな動きが鈍くなってますね」 秋月がいう。プレー中に立ち止まることが増え、しきりに汗をぬぐい水を飲む様子にそう感じた。特に左右サイドの消耗が激しい。 「メンバーを変えるか」 いままで無言で試合を見ていた指揮官は決断した。
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