プロローグ

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あの日を思い返すだけで、負けたくないという思いがわいてくる。 利央は向島と握手した右手の指を折り曲げ、自然と拳をつくっていた。 負けたくないけど、俺はU-15代表に選ばれている向島に勝てるのだろうか。 力をつけたとはいえ、個人の技量では向島が上手だった。恐らく、このままでは向島にポジションを明け渡す羽目になるだろう。 ポジションとチームの再編成は、四月末の一年生と二年生の試合で決まる。去年、利央たちが経験した試合だ。 向島より活躍しなければ、いけない。 先輩として、ひとりのサッカープレーヤーとしても負けられない利央は、向島を意識するようになっていた。 全校生徒、校歌斉唱という声が体育館に響き、利央はあわてて立ち上がる。 半分も覚えていない校歌をぎこちない調子で歌う。 そんな利央の後ろ姿を冬馬は、じっと見つめていた。
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