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それは突然だった。
世界が闇に包まれた。
──なんだよ、これ……。
さっきまで見えていた光景も、
遠くから聞こえていた街の喧噪も、
地面を踏んでいる感触も、
風に乗って流れて来る空気の臭いも、
それら全てが消え失せていた。
──どうなってんだよ……!!
おおよそ五感を刺激する存在が消えた世界で、自身の身体の感触だけが彼の正気を辛うじて保っていた。
状況を把握しようとして反射的に周囲を見回した。しかしそこには当然の様に暗闇しかなく、手掛かりになりそうな物も先程までいた妹の姿も見当たらない。
次に下を見た。しかし状況は変わらない。
地面の感触は無い。しかし浮遊感も感じない。立っているのか立っていないのかすら曖昧な感覚。それを感じることしか出来なかった。
──……夢…………なのか…?
自分は帰宅途中だったはずだ。そこから突然こんな事になるなど夢しかない。そうでなければおかしい。
──本当はもう帰宅後で……ただ変な夢を見てるだけだ…。今日はちょうど帰ったらすぐ寝ようと思ってたし…。そうだよ…、これは夢なんだ……。
身体の感覚がリアル過ぎること、意識がはっきりし過ぎていることを自覚しつつも、自身にそう言い聞かせる。何度も何度もこれは夢だと言葉にして自己暗示をかける。
そうして彼が心の平穏を保とうとした時、事態は変化した。
──……………なんだ?……何かに引っ張られてる?というより、流されてる……!?
外界からの刺激は無い。そんな中でどうしてそう思ったのか自分自身でも分からなかった。それでも、今自分は移動していると強く思った。
方向としては真上。まだ見ていなかったそちらへ顔を向けようとして、黒一色から今度は白一色へと視界が塗り潰された。
そこから、声を上げることも思考する暇さえ与えられずに彼の意識はプッツリ途絶えた。
そして、彼──袖野湊弥は二度目の人生に突入する。
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