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「椎名」
「はい」
「今から、学校に行かなきゃいけなくなったから。
悪いけど、帰りはタクシーを今日子先生に手配してもらって。
遅くならないうちに帰るようにね」
「はい、…分かりました」
わたしは今にも震え出しそうな身体を必死で抑えていた。
見慣れた体育館が炎に包まれている映像は、あまりにも衝撃的だった。
「今日子先生、二人をお願いします」
「わかった」
フジコ先生は頷いた。
春山先生が歩き出そうとすると、更科くんが足を踏み出した。
「先生、俺も」
先生は更科くんの顔をじっと見て、
「車、回してくるから。すぐ支度して降りて来て」
当然、ついて来てはだめだと言うとばかり思った私は、驚いて春山先生の顔を見た。
先生は、足元で見上げる祐希の頭を優しく撫でてから、そのまま車のキーとコートを手に、リビングを出て行った。
更科くんが自分の上着を掴み、その後に続く。
少し間を置いて、玄関のドアが閉じられる音が響き、部屋の中は唐突に静かになった。
後には、ぐつぐつと煮える鍋の音だけが、寂しげに取り残されていた。
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