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 リビングの大きな座卓の上に小皿を並べていると、背後の対面キッチンで仲良く作業するフジコ先生と祐希の楽しげな笑い声が聞こえて来た。  閑静な住宅街の一角にあるフジコ先生のマンションは10階建てで、先生の部屋はその最上階にあった。  新築で引っ越して1年近く経つらしいけれど、ふすまで仕切られた和室からはまだ真新しいイグサの香りがする。  6人分の箸置きを並べながらちらりと和室の方を振り返ると、春山先生が大樹さんと向かい合い、将棋を指している姿が見えた。  様子を聞いていると、大樹さんが待った待ったと連呼して、なかなか勝負が進まないようだ。  ……将棋、かあ……。  わたしは、春山先生の退屈そうな横顔を見つめながら、フジコ先生の恋愛講座の内容を思い出していた。 『恋はね、将棋とおんなじ。詰めが甘いと最後にひっくり返されて、全部持って行かれちゃうのよ』  あの日、カウンセリング室で恋愛指南を受けた時、フジコ先生がわたしに言った名ゼリフだ。  
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