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外に出て、白井さんの車の方に手招きすると、少し間があってから運転席のドアが開いた。
白井さんはこちらに手を振ってから、後部座席を開け、頭を突っ込んだ。
祐希がなかなか起きないのか、随分と長い時間、その体勢で止まっている。
目立つのはよくないと思い、わたしは再び建物の中に入った。
左手にある大きく開けた待合スペースを奥まで進み、ソファに腰掛ける。
深夜のためか、メインの照明は落ち、薄明るい間接照明だけがぼんやりと灯っていた。
受付で聞いた話によると、ヒロシくんは火事の現場の近くで倒れているところを発見され、救急車でここに運ばれて来たとの事だった。
やけどや目立った外傷はないようだが、本人が頭を打って気を失ったと話していることから、念のため今夜は病院に泊まり、明日改めて脳波などの検査を行う予定になっているらしい。
看護婦さんの口調からは切羽詰まった様子は感じられなかったので、ヒロシくんが重篤な容態でないことは確かなようだが、…やはり直接顔を見るまでは安心出来ない。
じりじりしながらしばらく待っていると、夜間出入り口から誰かが入って来る足音が聞こえた。
…来たかな。
わたしは立ち上がり、そちらに向かおうとして…。
慌てて柱の陰に隠れた。
…やばッ…。
ヤモリのように四角い柱にへばりつき、じりじりと移動しながらその足音をやり過ごす。
通り過ぎた後姿を柱の陰から覗き見ると…。
…春山先生…。
先生はコートを手に廊下を足早に進み、暗がりに消えて行った。
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