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「いくら過程でリードしていても、意味がないの。
最後の最後に確実に勝つ。
これが本当の恋の勝者よ。勝つためには、先の先まで計算を行き届かせること。
そのために、あえて手段として、一度負けて引くことが、最終的な勝利を導く場合もあるのよ」
カウンセリング室のソファで、わたしはフジコ先生の話を熱心に聞いていた。
一度、負ける……。
ピンと来なくて難しい顔で考え込んでいると、
「そうね。まだ、椎名さんには早いかもしれないわね」
フジコ先生は頷いて、
「それじゃあ、具体的な初級編から行きましょうか。オトコを落とす三カ条、初級編」
「よろしくおねがいします」
わたしはマグカップを脇に置いて、頭をぺこりと下げた。
「まず、ひとつめ。”男の右脳を刺激せよ”」
「右脳……」
「今回のようにみんなでテーブルを囲む時は、ターゲットの左隣に座ること」
「左隣?……どうしてですか」
「人間て、身体の左側で感じた情報は右脳に運ばれるものなの。
そして、右脳は恋愛する脳。ここに女らしさを送り込んで、彼の身体に、自分の存在をインプットするわけ。
膝の上にさりげなく手を置いたり、笑った勢いで腕にもたれたりして、出来る限り、女の身体の柔らかな感触をアピールすること。
偶然胸が触れたりすれば、なお完璧」
わたしはフジコ先生の胸元と自分を見比べ、
「……胸が届かない場合は……」
「……。ドンマイ。無理しなくて大丈夫」
「……はい……」
「次に」
先生はキャスター付きの椅子にもたれ、足を組んだ。
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