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「唇を見た時に、彼の脳裏に、以前、グロスまみれになった時の不快感が蘇えるようになったら、…無意識のうちに、キスの回数は間違いなく減るわ。  だから、…彼を唇で誘いたいなら、必ず、素クチビルで勝負するの。これが鉄則。 ついキスしたくなる唇っていうのは、絶対にすっぴんなの。 キスしたらべとべとしたり、色が移ったりすることを想定させたら、負け。  ちなみに、わたしの家には、口紅の類は全く置いてないわよ。」 「…え…。でも先生、口紅、塗ってますよね」  フジコ先生は、ニッと笑って、 「ここ十数年、口紅は一切塗った事ないわ」 「うそっ。今も?…だって、そんなツヤツヤで、紅くて…」 「十数年前から、欠かさずしてるのよ。唇に、はちみつパック」 「…すごい…」  改めて顔を寄せて見ても、フジコ先生の唇は何かを塗っているかのように紅く、つるんと光っている。 「分かっていただけた?…以上が、わたしの恋愛必勝法、初級編よ。…ほんの一部だけどね」 「すごい…。目からウロコです…」  わたしはまだ、先生の唇に見惚れていた。 「はちみつパックの方法は、椎名さんの携帯に後でメールしておいてあげる。 家にあるもので充分対応出来ると思うから、今夜から、がんばって始めてみて」 「わかりました…」  …すごい…。  ていうか、フジコ先生、キスに命懸け…。  もしかしたら、わたし…物凄い人を味方につけてしまったかもしれない。  わたしは尊敬の眼差しでフジコ先生を見つめた。
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