第1話

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 それはそうと、お客さん、まだ見付けられないかい? 可笑しいなあ、見付けられないはずはないんだけどねぇ。こういうのを諺で何と言ったかな……、百聞は一見に如かず、だったかな。いやいや、すまない、全くの勘違いだった。勘違いよりも質が悪い、そもそも私は諺というものに疎くてね、適当吹いただけなんだよ。  でも、そうだな、よぉ――く思い出してみよう。こういうのを諺で何と言うのか。確か、そう――灯台下暮らし。  うん? あれ、何か違うなあ。灯台の下に暮らしてるって、一体どんな意味を孕んでいるのか少しも分かりゃしない。  正しくは《灯台下暗し》だって?  そうそう、そうだ、何だお客さん、物知りだったのかい? それにしちゃあ随分と、見落としているみたいだけれどねぇ。これぞ正に、灯台下暗しってもんだよねぇ。  もう分かったかい? ……分からない?  仕方がない。それじゃあ見せてあげよう。そろそろ時間も気にしないといけない頃合だ。  良いかい、これから私はお客さん、あんたを見るよ。そしてお客さん、あんたは私の目をよくよく見てみるんだ。そうすると見えてくる。  ――ほうら、見えただろう?  私の目に映った、あんたの姿がさ。
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