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それは俺が見つけた獲物だった。
獲物、っーか、餌?
俺は化け猫だからな、鼻は利く方だ。
草むらの陰からなんか匂うなーってふらりと寄ってみりゃ、案の定死にかけのちっこいちっこいウサギが転がってやがった。
山の獣にでも襲われたのか、やわい毛皮にはざっくりとえぐれた真新しい傷。
よくもまあ、これだけ深手を負って逃げてこれたもんだ。
とはいえ、あれだな。
虫の息ってやつだ。
例え運良く助かっても、こうも小せぇんじゃ…
「九郎、何を寄り道して――!」
俺の後を追ってきた同行者の千草が目の色を変え、ちびウサギの傍にしゃがんで手をかざした。
「止めとけ。治すだけ無駄だぜ」
コイツにゃ怪我を治す術がある。
ただ、なんでもかんでも治そうとするのはどうかと思うぜ。
「無駄などと言うな」
千草は俺をちらりとも見ずにぴしゃりと言い放つ。
その両手がほのかに光ると、少しずつ傷がふさがっていくのが見てとれた。
「千草。んなチビ、怪我治したって生きていけるもんか」
「………」
「乳離れもしてねぇだろうし」
「…………」
「餌食えねぇで、すぐ死ぬぞ」
「しつこい」
俺の指摘を完全無視して治療に専念する千草は、再度短く言い切る。
頑固なコイツはこうと決めたらテコでも動きやがらねぇからな。
諦めて見守る事にした。
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