第1話

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それは俺が見つけた獲物だった。 獲物、っーか、餌? 俺は化け猫だからな、鼻は利く方だ。 草むらの陰からなんか匂うなーってふらりと寄ってみりゃ、案の定死にかけのちっこいちっこいウサギが転がってやがった。 山の獣にでも襲われたのか、やわい毛皮にはざっくりとえぐれた真新しい傷。 よくもまあ、これだけ深手を負って逃げてこれたもんだ。 とはいえ、あれだな。 虫の息ってやつだ。 例え運良く助かっても、こうも小せぇんじゃ… 「九郎、何を寄り道して――!」 俺の後を追ってきた同行者の千草が目の色を変え、ちびウサギの傍にしゃがんで手をかざした。 「止めとけ。治すだけ無駄だぜ」 コイツにゃ怪我を治す術がある。 ただ、なんでもかんでも治そうとするのはどうかと思うぜ。 「無駄などと言うな」 千草は俺をちらりとも見ずにぴしゃりと言い放つ。 その両手がほのかに光ると、少しずつ傷がふさがっていくのが見てとれた。 「千草。んなチビ、怪我治したって生きていけるもんか」 「………」 「乳離れもしてねぇだろうし」 「…………」 「餌食えねぇで、すぐ死ぬぞ」 「しつこい」 俺の指摘を完全無視して治療に専念する千草は、再度短く言い切る。 頑固なコイツはこうと決めたらテコでも動きやがらねぇからな。 諦めて見守る事にした。
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