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3.
規則正しい電車の音が心地よかったのか、遊園地からの帰り道、窓側に座っているさやかに肩を寄せて、咲子は静かに寝息を立てていた。
天候にも恵まれ、スケジュールも大体、予定通りにこなすことができた。でも、咲子がジェットコースターが大好きで、3回も付き合わされたのは、それが苦手なさやかは、お客の依頼なので青い顔で笑顔で応じるしかなかった。
でも、咲子が学校のことを忘れたかのように、はしゃいでいるのを見て、さやかもうれしかった。さやかも、久しぶりに、仕事だということを忘れて、楽しんだ。
6両編成のこの電車は、30年以上前に製造された古い型で、遊園地から帰る客で、そこそこ混雑していた。
夕闇の中で、住宅や街灯がちらほら点灯し始めていた。
隣で寝ている咲子を気にしつつ、さやかはぼんやりと景色を眺めていた。
ふと、心にひっかかるものがあった。窓を流れている景色に、どこか見覚えがあったのである。
でも、遊園地からの帰り道に通るこの町には、本当に初めて来たのである。
咲子が住んでいる所の近くにある遊園地には、咲子の中学校のクラスメイトと会うかも知れず、教室でひとりぼっちである咲子が、それはいやだというので、あえて、遠くにあるこの町の近くの遊園地に行くことにしたのである。
さやかはそれ以上深く考えなかった。
きっと、どこかで似たような景色を見たことがあったのだろう、と思うことにした。
電車は、中央リニア新幹線の接続駅へ到着した。
あれだけの距離を40分で走り抜けるのだから、便利なものである。
さやか達は、IC切符機能付きの携帯電話を改札機へかざして、上り方面のホームへ上がった。
日曜日の夕方、ホームは帰る人で、混雑していた。
幸いにも、待合室の空いていた席へ腰掛けて、リニアの到着を待つことにした。
ときおり、中央の通過線をものすごい速さで、リニアが駆け抜けていく。まばたきをしていると、もう姿はない。
ホームはすべて壁で覆われており、列車が到着したときだけ、ホームドアが開く。
やがて、構内アナウンスが、さやか達の乗るリニアの到着が近いことと、途中停車駅、終着駅を告げ始めた。
「帰ろうか…」
と、さやかは名残惜しそうに、遊園地で買ったアクセサリーを見つめている咲子を促した。
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