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そして、現在は、中学校でひとりぼっちになっていた咲子の友達として、派遣されているところなのであった。
さやかは幼い頃の記憶がなかった。自分は、どうしてこの施設にいるのかわからなかったが、自分は親に捨てられてここへ引き取られたのだろうと思っていた。さやかの他の同僚たちも、きっと自分と同様、親に捨てられてここへ来たのだろうと思っていた。
息を切らして管理室の前へやってきたさやかは、呼吸を整えてから、
「失礼します」
と、ドアを開けた。
職員室のような管理室の中程に、パステルピンクのブラウスと、ライトグレーのパンツを着た、耳が見えるくらい髪の短いボーイッシュな女性が、さやかの担当職員の美羽(みう)が座っていた。同じ職員でも、さやかとちがって派遣されるのではなく、さやかたちを管理する側の職員である。私一人で、20人くらい抱えているの、と、さやかは美羽から聞いたことがあった。
美羽は、さやかに合う仕事を用意したり、スケジュールを調整したり、お客とのもめごとを解決したり、はたまた、さやかの体調や心のケアをしてくれる。さやかが幼いころからの世話役だったので、最初、さやかは美羽と本当のお母さんと勘違いしていた。
さやかは、美羽に駆け寄ると、持ってきた資料を胸に抱えながら、寝坊してしまったことをお詫びした。
今日の朝8時から、咲子の経過について、美羽と打ち合わせる予定だったのである。昨日のよるの予定だったが、美羽はさやかが疲れているのを気遣い、翌朝ということになっていたのであった。
美羽は机の資料から、目を上げて、さやかをじっと見つめた。
「よく眠れたかしら? ランチでもしながら、話しましょうか」
美羽は、さやかの遅刻をとがめることはなく、机に両手をついて立ち上がった。
咲子との関係は順調だったし、咲子の家庭、学校、周辺の環境に大きな変化はなかったので、打ち合わせはすぐに終わった。
「今日はお休みなんだから、仕事のことは忘れてゆっくりしてね。そういえば、明日は、咲子さんとデートで、遊園地に行くんだっけ」
美羽のちゃかすような声に、考えごとをしていたさやかは、自分が今食堂にいることに、あらためて気がついた。テーブルの上には、デザートのアイスクリームに刺さっていたポッキーが溶けて落ちそうになっていた。
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