さようなら、さやか

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「あまり考えこんではだめよ。どうせ、大人になったら、咲子さんは、さやかのことなんて、忘れちゃうんだから」 美羽は、お客に入れ込みすぎるさやかを気遣って、あえてすこし冷たいことを言ってみた。 「そうですね」 さやかはうなづくと、やっとアイスクリームのスプーンを手にとって、食べ始めた。  部屋に戻ったさやかは、机に腰掛けると、携帯電話をチェックした。咲子から明日は楽しみ、というメールがあったので、そうだね、と返信しておいた。  それから会社から支給されている小型のノートパソコンを開いて、明日の旅程やスケジュールをチェックした。  一息ついたさやかは、カーテンを閉めて部屋を薄暗くしてから、制服をハンガーにかけて、ベッドに横たわった。  どうして、こんなに疲れるのか、わからなかった。最近やっときた、遅めの初潮に、体が慣れていないせいなのかもしれない。今度、美羽に相談してみようと思った。  ちょっと寝るだけのつもりだったが、いつの間にか、さやかは静かに寝息を立て始めた。  午後のゆるやかな日差しが、カーテン越しに薄暗い部屋に差し込んでいた。  さやかが目を覚ましたのは、夕方の18時過ぎだった。明日は、遠くの遊園地へ行くので、朝5時には起きて、支度をしなければならない。今晩、眠れるだろうかと、心配になってきた。  カーテンを開けると、黒い森の向こうに、赤く染まった夕焼け空が広がっていた。明日は天気もだいじょうぶそうである。  すこし汗ばんでいたからだをシャワーで流して、机の前に腰掛ける。  夕食の時間であったが、夕方のこの時間は混雑する。さやかは混雑を避けて、20時前に行くことが多かった。  明日もって行く荷物を、リュックサックに入れたりして、準備をしていると、ようやく、19時30分になった。  さやかは、トレードマークの制服を着て、部屋を後にした。  食堂までの廊下は、冷たい裸の蛍光灯で照らされていた。食堂へ歩いていくと、遠くにある体育館から、時折にぎやかな声が聞こえてきた。  窓の外はすっかり真っ暗である。あらためて、この施設が山奥にあることを思い知らされる。しかし、どうして、こんな僻地に作る必要があるのだろうか、と時折さやかは疑問に思う。
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