さようなら、さやか

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 高校1年の春から派遣された舞子は、常に成績はトップクラスで、そのお客の自慢の娘として振舞った。  でも、その成績を維持するのは、大変だったに違いない。  仕事とはいえ、この3年間、いつも図書館にこもりきりで勉強ばかりしていた舞子を、さやかは気の毒に思っていた。  そしてこの春、舞子は東京の有名大学の医学部に合格し、ついに、そのお客の念願を叶えたのであった。 「こんばんわ、東大生のエリートさん」 さやかは冗談めかして言った。でも、舞子は視線を落として、 「もう、東大生じゃないよ」 と寂しそうにつぶやいた。  聞けば、合格したことを報告したら、お客は、 「舞子さんが、本当の娘だったらね…」 と、あまりよろこんでくれなかったということであった。  そして、お客は、自分がしていることの無意味さに気づいたのだろうか、合格した日に、舞子の派遣契約を打ち切った。  もっとも、合格したら、契約は終了だったのだが、舞子は契約を更新してくれたら、キャンパスライフを満喫できたのに、と笑った。  でも、本当は、3年間のがんばりをお客の母親に認められなかったのが、せつなかったのだろうと、さやかは思う。この3年間、お客の母親との話をする舞子は、うれしそうだった。たとえ、それが、成績と引き換えに与えられる愛情であったとしても。  舞子の合格は、施設の手により、舞子の意思とは無関係に辞退させられた。  4月から、舞子は、ときおり単発のレンタル恋人や、家庭教師の派遣をこなすものの、継続的な契約はなく、暇をもてあましていたのであった。  暇なのがいけないのだろうか、舞子の服装は最近、乱れてきているように感じられた。耳にはピアスをし、やり始めた化粧は妙に派手で、体の女性らしいラインが引き立てられる服ばかり着ていた。気のせいか、胸とお尻が大きくなったように、さやかには見えていた。さやかは舞子の胸を見て、つい自分のと比べてしまい、落ち込んだ。  髪もうっすらと茶色く染め始めたようである。3年間の間、優等生を演じてきた時にしていた、分厚い眼鏡はコンタクトレンズに変えたに違いない。仕事に差し障りがない程度のおしゃれは、許されていたが、舞子のは度が過ぎていた。  舞子が施設に反発しているのか、それとも、施設の意思なんだろうか。 「あたしも、もう18才か」 舞子は、ポケットからライターとたばこをだして、口にくわえたが、
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