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麦わら帽子が風に舞った。少女は手を差し伸べそれを掴もうとした。だが帽子は紺碧の海に吸い込まれるように舞い落ちていった。
夏休みに入って、別段やることもない晶子はオカミさんの家事手伝いをして過ごしていた。おかげでご飯の炊き方や料理のやり方もいろいろ憶えることになった。そんなある日、朋美から携帯に電話が入った。
「どうしてるの?晶子」
「あっ、朋美。もう退院できたの?」
「あんな薬臭いところにいつまでもいられないわよ」
「声を聞く限りでは、かなり回復したって感じね」
「ところで、わたし海に行きたいの。いっしょに行かない?」
「海?どこの海?」
「もちろん、島よ。太平洋の孤島に行くのよ」
「何?それ」
「わたし、毎年夏休みはうちの別荘とか行ってゴージャスに過ごしてたんだけど、今回は晶子と一緒に庶民的な方法で夏をエンジョイしたいと思ってるの」
「わたしは庶民でもなんでもないけど、海は大好きよ」
晶子はひかり学園にいたときに、園長らが引率して施設の子供たちみんなで海に遊びに行ったことを思い出していた。
行く先は伊豆沖の大津島だった。朝早く晶子が朋美と一緒に竹下桟橋に着くと、澤本一樹と蒼井翔が船の切符を持って待っていた。一樹と翔が一緒とは聞かされていなかった晶子は驚いた。
「わたしたち向こうに着いたらキャンプすることになってるから、男の人たちがいた方が心強いでしょ」
それが、朋美の晶子に対する弁解の言葉だった。
「任せてよ。力仕事からボディーガードまで何でも引き受けるから」
おしゃべりの翔はもっと言いたかったようだが、一樹がそれを遮るように晶子に耳元で囁いた。
「誘ってくれてありがとう、晶子さん」
その言葉に晶子は顔が赤らんだ。
大津島までの船旅は約三時間だった。夏休みシーズンで、船内は若者たちでごった返していた。この雰囲気が朋美の言っていた庶民的ということなのかと晶子は思った。朋美と一樹、翔は一階客室でトランプを始めた。
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