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晶子はトランプ遊びに興味がなかったので、独りで二階に上って乗船口の窓からどこまでも続く青い海を観ていた。まるで油でも引いたかのように滑らかな海面が夏の日差しを受けて輝く雄大な光景は晶子にとって初めての経験だった。すると、すぐ後ろから声を掛けられた。女性の声だった。
「あなたは誰?」
その声に晶子が驚いて振り返ると、晶子と同じ年頃の麦わら帽子を被った女の子がニコニコしながら立っていた。
「わたしは晶子よ。あなたこそ誰?」
晶子の目にはその女の子が全身真っ白な姿に映っていた。
「わたしは茉莉。あなたとわたし似ているわ」
茉莉の意味するところが晶子にはわかっていた。茉莉は亡霊だったからだ。
「わたしはあなたとは違うわ。生きてる人間だから」
「そうだ、わたし…もう生きていないんだ。思い出したわ。でもあなたはわたしが見えるのね」
「わたしは半分、透明人間なの。つまり、あなたのような霊と同じ不可視光線を出すことができるしそれを見ることもできるの。だから、霊視能力者のようにあなたが見えるわ」
「なんだか言ってること分からないけど、わたし人を探しているの。わたしの研くん…」
「そうなの。それで、研くんはこの船に乗ってるの?」
「わからない。いつも、わたしこの船に乗って大津島に来る人たちの中に研くんがいないか探しているの」
茉莉はさびしそうに晶子にそう言い残して、階段下に吸い込まれるように消えた。
やがて、船は大津島の港に着いてリュックを背負ったり、大きな手荷物を持って乗客たちが上陸した。晶子たちは軽装だった。朋美のアイデアでキャンプに必要なものはすべてこの島のキャンプ地が用意しているレンタルサービスを利用することにしたからだ。島内巡りのバスを利用して目的のキャンプ地に着いた。
テントや炊事道具などはレンタルして、割り当ての場所にテントを二張り設置した。すべて翔と一樹の男仕事だった。その間に、晶子と朋美は食材を近くのスーパーに買い出しに行った。やがて、夕暮れ時になってあちこちのテントから夕食の準備に追われる笑い声が聞こえてきた。晶子と朋美も慣れない手つきで料理を始めた。
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