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「おっ、良い匂いがするぞ。今日の夕飯は何ができるのかな?」
そう言いながら、ひと泳ぎした翔が一樹と一緒に晶子たちのところを覗きに来た。晶子はオカミさんに教わったご飯の炊き方を飯ごうを使って試していた。朋美はカレーを作っていた。
「もうっ、まだだめよ。いまわたしたちふたりともキャンプは初心者で奮闘中なんだから」
朋美が口を尖らせて言った。晶子も初めての飯ごうなので一樹たちを相手にする余裕がなかった。それでも、男どもは立ち去りそうになかった。
「晶子さんは飯ごうの使い方だれに教わったの?」
一樹が心配そうに聞いた。
「えっ。わたし初めてだから、適当にやってるの。多分、水の量はうちのオカミさんに教わった通りにしたから大丈夫だと思うんだけど…」
「飯ごうは昔のお釜でご飯を炊くのと同じなんだ。ほら、『はじめちょろちょろなかぱっぱ、あかご泣いてもふた取るな』っていうだろう。そして、最後に飯ごうを火から降ろして逆さにしてしばらく蒸したら完成さ」
そう言いながら一樹は薪を足して火勢を強め、晶子を見て微笑んだ。晶子は一樹の涼しげな眼が好きだった。
一樹のサポートもあり、初めてにしては無難にできたカレーライスをたらふく食べて晶子たちは海岸を散歩することにした。夏の暑い日差しに隠れる場所もなかった日中とは打って変わって、キャンプ地の夜は少し肌寒さを感じるほどに涼しかった。海岸までは道沿いに電灯があって明るかったが、浜に着くとそこは真の闇だった。
ただ、晶子には暗視能力があり、浜にたむろする若者たちがあちこちにいるのが見えた。一樹が晶子の手を取り、朋美と手をつないだ翔が懐中電灯を照らして四人は声を掛け合いながら暗闇のなか潮騒と汐の香りをたよりに歩いた。そして、海辺に寄ったところで砂浜に並んで腰を下した。晶子が空を見上げるとまさに満天の星だった。
「すごく、星がきれい」
晶子の言葉に隣にいた朋美が反応した。
「どう、庶民のバカンスもたまには良いよね」
「朋美には似合わない言葉だな」
朋美のとなりで翔が言った。
「翔だって同じようなものでしょう」
「確かに…。ハハハ」
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