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そのとき、パーンと音がして花火が上がった。近くのホテルで花火を打ち上げ始めたのだ。夜空に大輪の花が開く度に、晶子たちのいる浜がパッと明るくなった。晶子を除いてみんなは、浜にいるのは自分たちだけと思っていたらしく、周りのあちらこちらで若者たちが思い思いの時間を過ごしているのに気が付いて笑った。これが朋美の言う庶民のバカンスかと、晶子はまた思った。
晶子たちはキャンプ地に戻ると、男女に別れてテントにもぐり込んだ。テントの隅に置いた携帯ライトの薄明かりのなかで晶子と朋美はそれぞれ寝袋の上に寝転がっていた。
「ねえ、朋美。今日船の上で変なことがあったの」
テントの黄色い天井にできた二人の大きな影を見つめながら晶子が朋美に話しかけた。
「なに、変なことって?」
「わたし、幽霊にあったの」
「ええっ、ちょっと。こんな夜更けに怖い怪談の話はなしよ」
「でも、気になるから話しておきたいの」
「まあ、いまは夏で怪談シーズンだから。良いんだけど…」
朋美は薄暗いテントの中で、ほんとうは怪談話なぞ避けて通りたかった。晶子は船上で、茉莉と名乗る同い年くらいの亡霊に声を掛けられた話をした。
「ええっ、それって、晶子が茉莉っていう幽霊とお友だちになったということ?」
朋美の声は震えていた。
「友だちというよりも、同類だと思ったみたい」
「同類って、晶子も幽霊だと、その幽霊の女の子が勘違いしたわけ?どうして?」
「前にも話したけど、わたしの母は生霊族という一種の透明人間の一族で、わたしはその体質を受け継いだようなの。その体質というのが、幽霊と同じ普通の人間では見えない光を全身から出すことなの。そのためにわたしは透明人間になれるわけ」
「それじゃあ。その幽霊の女の子は晶子のその体質というか、同じ光を感じ取ったということなのね。それで、幽霊に声を掛けられたということなの。おお、怖い、怖い」
朋美が泣き出しそうな顔をした。
「それで、わたしが朋美に相談したいのは、茉莉がね、研くんという男の子がこの島にやって来るのを待ってるということなのよ」
「幽霊が人を探し回ってるということ。おお、怖い、怖い」
朋美はもう、これ以上は耐えられないという顔をした。
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