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休み時間になると、彩加がわたしの前の席にドカッと座り、顔を寄せた。
「バカだねえ、ヒロシ。だから、忍び込むのなんて止めろって言ったのにさあ」
そう言いながら、彩加はぽつんと空いたヒロシくんの机を心配そうに眺めた。
「落ち込んでたね、ヒロシくん」
「うん…。可哀相だとは思うけど…。なんて言ってあげたらいいか、わかんないんだもん…」
二人同時に重いため息をつく。
「……わたしちょっと、ヒロシくん探してくる」
「え?」
「すぐ戻るね」
彩加を教室に残し、わたしは廊下に出た。
きょろきょろしながら階段の方に向かい、ふと窓の外を覗くと、春山先生の背中が見えた。
――あ……。
自動販売機でパックのジュースを買うと、隣で俯くヒロシくんに手渡す。
ひとことふたこと言葉をかけた後、ヒロシくんの頭をぐしゃぐしゃに掻きまわし、柔らかな笑顔を向けた。
ヒロシくんは泣き笑いしながら、パックのジュースを飲んでいる。
しばらく話した後、春山先生はヒロシくんの背中をバシッと叩き、校庭の方に歩いて行った。
先生が去って行く後姿を、ヒロシくんはその場からじっと見つめていた。
振り向いたヒロシくんは、少し肩の荷が下りたような表情を浮かべていて、そのまま軽い足取りで校舎に入って行った。
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