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3階に上がると、エレベーターの目の前にあるナースステーションで若い看護婦さんに呼び止められた。
「失礼ですが、…どちらにご用でしょうか」
怪訝そうな看護婦さんのテキパキ口調に圧され、わたしがパクパクしていると、白井さんが一歩前に足を踏み出した。
「今日、救急で運ばれた十和田裕史の家族なんですが。ついさっき連絡を受けて駆け付けたんですよ」
「ご家族。…えっと…」
「これが同居の妹で。わたしは離れて暮らしている兄です」
わたしはヒヤヒヤしながら、隣でただピョコピョコ頷いていた。
「大したことがないというのは母から聞いていたんですが、…顔だけ見ていってもかまいませんか」
看護婦さんが口を開こうとしたとき、奥でナースコールが響いた。
彼女はクリップボードに取り付けられた用紙を差し出し、記名をするよう指示すると、慌ただしく奥に引っ込んで行った。
白井さんがわたしにニッと笑顔を向け、ボールペンを手に取る。
…ホント、適当な人。やっぱり信用出来ない…。
呆れながら白井さんの手元を後ろから覗き込むと、そこには「十和田一郎」「十和田花子」という、いかにもインチキ臭い名前が書かれていた。
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